名刺とOCR
名刺印刷は印刷会社の基本と言われる。新しい得意先を獲得するのに「名刺1枚でもいいですからやらせてください」と新規獲得のためにかけまわるのが営業の基本だと古参社員から言われたものだ。その名刺もIT化の進展する中、携帯電話同士で個人情報データを交換する時代となれば、早晩なくなると言われものだが、なかなかそうならない。もちろんSNSでのビジネス交流も増えているのだが、やはり初対面のときにはまず名刺交換から始まる。一向に変わらない。
私のような、会社の代表ともなると、年間にいただく名刺の量は半端ではない。だからかなり以前から名刺管理ソフトは必須だった。初期はEXCELにいちいち入力していたが、10年ほど前、専用スキャナで読み取ってデータベースにしてくれるソフトが登場して、早速にとびついた。
もちろん、画像認識してテキスト化する、いわゆるOCRなのだが、当時は読み間違いも多かった。特に印刷会社の社員名刺はOCRでは判読が難しかった。印刷会社の社員の名刺は自社名刺の商品見本ともなっているわけで、デザインや書体に妙に凝っているからだ。
結局読み取れなかった名刺はあとでデータベースを開いて手動で修正するしかない。この修正が結構めんどうだし、スキャナにトラブルが多かったが、他のソフトに乗り換えると今までのデータ資産が使えなくなるので、バージョンアップを繰り返しつつ長年使ってきた。名刺をデータベースにしておいてくれる利便性には変えられない
しかしAIも発達しているご時世、もうすこし読み取り精度があがっていないかと探してみたら、思惑どおり、最近の名刺ソフトは長足の進歩をとげていた。専用スキャナなんか使わなくても、複合機に適当に並べるだけで、枚数分読み取ってくれる。しかも少々ゆがんで置いても問題ない。OCRの読み取り精度たるや比べものにならない。ほとんど一発でテキスト変換してくるし、疑わしいものは、ソフト側からあっているかどうか尋ねてくる。以前のものが間違っていようがいまいが、おかまいなしにデジタル化したのとは大変な違いだ。
自動で作成されるデータベースも機能が充分で、他のソフトとの相性もいい。会社中で統一して使えば、名刺を共通管理できるし、同姓同名の人の所属が変わったりすると、自動的に所属を最新のものに修正までしてくれる。AIの時代だから、進歩はしているだろうと思っていたが、予想以上である。
OCRがうまく機能すれば、印刷物の利用は新しい段階になるとは何十年も前から言われてきた。印刷物とデジタルデータが相互に変換し合えるからだ。デジタルから印刷物はいまや完全に情報が変換できる。ただし、印刷物からデジタルへは簡単に変換できなかった。だからこそ、QRコードのような印刷物をデジタルへとつなぐ仕掛けが必要だった。QRコードは一手間多いし、デザイン上の制約でもあり、印刷物にとっては邪魔でしかない。これが今回の名刺ソフトのようにOCRが発達すれば、普通に人間の読む印刷物が普通にデジタル化してコンピュータにはいってくることになる。
こうなれば印刷物は大きなデジタルネットワークの中にシームレスにつながることになる。これは大きい。名刺から印刷物にあらたな地平がやってくる。