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見学会の定量評価

京都府の印刷工業組合で、デザイン系大学の学生さんの会社見学会を開催した。人出不足の昨今、この手の催しはよく行われてはいる。この手の催しは、行われたという事実のみで、効果については検証が行われていない。

これだけでは主催する側の自己満足に過ぎないのでないか。そこはIT経営者としてはもう一歩踏み込んでみたい。

今回、この見学会の効果を定量的に計ってみることを提案し採用された。手法はSD法によるアンケートである。それも見学前と見学後に同じアンケートを実施して、その態度変容を測るということをおこなってみたのだ。業界のアンケートというと、「感想を聞く」という形式のものが多いが、これでは本当の効果は計れない。見学会などを催すと、お世辞や御礼の意味もあって、みんなよいことを書くからである。これはずっと、私が疑問に思い続け、改善したいと思ってきたことだった。

アンケートのSD法とは特段変わったことではない。アンケートを一度でも経験した人ならご存じのことと思う。「その通りだと思う、おおむねそう思う、どちらともいえない、あまりそう思えない、まったくそう思えない」のような段階をつけて質問に答えてもらう形式だ。今回は5段階として、事業の効果を測定するため、事前・事後にまったく同じ質問を行った。質問は、

1. 印刷業は先進的産業である
2. 印刷は本や雑誌を作るだけの産業である
3. デザインやDTPも印刷の仕事である
4. 大手より中小の方がやりがいがある
5. 印刷業はこれからも発展す
6. 印刷業界に勤めてみたい  
7. 印刷機械オペレーターをやってみたい
8. 印刷や印刷業のことをもっと知りたい

の8項目。これ以外に、従来型の定性的質問「授業の感想をお聞かせください」
「印刷業についての感想をお聞かせください」を加えている。

事前質問は、大学で本見学会の3週間前に行った。この時点ではなんのレクチャーも行わず、学生さんの印刷業界に対するありのままの印象を聞いた。見学会それ自体は組合の会社でDTPと印刷現場の説明と見学を行った。この内容については京都府印刷工業組合から報告書が出ると思う。

定量測定の結果は劇的で見事に効果がとらえられた。

「印刷業は先進的産業である」という設問に対しては数多くの学生が「そう思う」へと変化した。事前では「そうは思えない」という回答も散見されたが、事後ではゼロであり、また事前では「おおむねそう思う」というような消極的肯定が多かったが、「その通りと思う」という積極的肯定へ変化している。百聞は一見に如かず。実際にコンピュータの並ぶDTP現場やハイテク機構のついた4色機を見た学生達の印象は劇的に変化したと言える。

「デザインやDTPも印刷の仕事である」「 印刷業はこれからも発展する」も上記質問ほどではないがかなり印象が改善した。また「印刷機械オペレーターをやってみたい」にも改善が見られた。これは機械現場の人手不足に悩む現場としては大いに力づけられる内容である。反面「 大手より中小の方がやりがいがある」はさほど変化しなかった。

これらの結果を点数化し変化量を報告したわけだが、私はそれに「大成功以外の評価は思いつかない」と書いた。印刷組合というところで長年お手伝いをさせていただいてきたが、こんな評価を書いたことは初めてだった。ともすれば縮小する市場のなか、何をやっても成果がでないということに慣れてすらいた。適切な活動と評価を行えば結果は出るのだ。

もちろん、数字のお遊びという批判も出るだろうし、統計的検定も必要だろう。でも今後の事業のあり方に示唆を与えられたと自負している。

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