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出版の垂直移動

 出版の落ち込みがとまらない。特に雑誌はつるべ落としで部数を減らしている。私も週刊雑誌の類いはまったく読まなくなった。新幹線にのるとき、以前はキオスクで週刊誌の一冊も買っていたものだが、まったく買わなくなった。なにしろスマホかタブレットでSNSのチェックでもしていれば2時間ぐらいあっというまに過ぎてしまう。雑誌を読む必要性がない。当然、出版社も苦しいし、その下請けを続けている出版印刷はなおのこと厳しい。

 さらにオープンアクセスという新たな出版形態が登場してきた。あえてここでは出版形態と言ったが、オープンアクセスは主に電子学術雑誌で使われる概念で、電子学術雑誌をただで誰でも読めるようにしようという運動である。確かに一般の出版とは少し意味が違う。ただ、今後の出版について大いに影響があると思われる。これは元々図書館のニーズからはじまった。図書館にしてみれば、無料で公開されれば購入費がかからないから運営上メリットが大きいのだ。日本の文部科学省はじめ世界の学術関係の政府機関はオープンアクセスは大歓迎のようだ。研究費を出して研究させたのに、その結果を読むのに出版社に金を払うのでは二重取りされているように見えてしまうからなのだ。

 しかし無料で公開するにしても、原稿を集め、編集してホームページに掲載する作業はいるわけで、当然製作費用はかかる。それを誰かが負担しなければならない。この回答は簡単で世の中すべてがオープンアクセスになれば、その分図書の購入費が浮く。それを発信する側にまわせばいい。図書館で編集して発行するリポジトリと言われる手法だ。つまり図書館が受信から発信にまわる。そうすればお互いに課金手続きやライセンス管理も減らせ、事務費用の大いなる軽減にもなる。それこそ一石二鳥というものだ。

 著者から掲載料をとってもいい。ネット配信なら印刷費も郵送費もかからないから、制作費は極めて低く押さえられる。それをページ割で著者負担にしたところでそれほど多額にはならない。

 オープンアクセスの議論を考えていると、これは出版ビジネスの完全な転換であることに気がつく。出版というのは、お金をとって情報を売るという行為だ。著者から原料としての原稿や写真の提供をうけ、加工して商品化し、書店におろす。電子書籍は、この最後の商品化の部分が紙から電子になった。それだけだった。つまり情報加工とそのマネタイズという意味では、本のビジネスモデルがそのまま水平移動して電子書籍と言っているだけなのだ。

 オーブンアクセスのビジネスモデルはこれを完全にひっくりかえしている。いや逆でさえない。垂直に移動しているといえるのではないか。出版の垂直移動だ。

 元々、ネットではブログというかたちで自分で書いて自分でただで公表するという形態が一般的だった。それにアフィリエイト広告をつけてマネタイズするということも行われてきていた。これは雑誌の広告料依存モデルのやきなおしと言えなくもないが、こちらの方が新しい垂直出版モデルには近いと思える。

 出版モデルをいったん解体、オープンアクセスを前提として垂直移動することで、新しい出版産業ができるのではないか。もちろん前述のように原稿を直にホームページに載せるだけでは出版にならない。出版たりうるためには編集とリンクや構造化といったデジタル処理がいる。ところが、前者はまだしも後者に旧来の出版社は関心を示さない。出版社の仕事とは思っていないのではないか。

 だとするなら、この垂直出版モデルはむしろ印刷会社の仕事にできないだろうか。印刷会社は紙の本の流通というビジネスのノウハウこそないが、ネット配信や公開用データファイル作成というところではむしろ近くにいる。印刷会社は出版社の下請けの地位から脱して元々出版社のいた生態系にあらたな出版生態系をうちたてることが可能ではないか。IoT屋がこの生態系にやってくる前に、先に開拓して住み着いてしまおうよ。

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