ORCIDを知っていますか
これはもしかしたら破壊的な影響を将来にもたらすかもしれない。ORCIDである。
ORCID(Open Research and Contributor Identifier)のことはこの2・3年耳にしたことはあったがそれほど気にしていなかった。研究者毎に個人識別番号を与えるというものだが、よくあるプロフィールサイトのひとつだぐらいに思っていたのだ。
研究者を同定(Identify)するのは業績評価において切実な問題だ。たとえば、中西秀彦を国立国会図書館のサイトで検索すると私の本やあちこちで書いた雑誌記事がヒットする。もちろん印刷雑誌の記事もヒットする。ところが中に小児科の医学記事もヒットする。全然なんの脈絡もなく、「新生児疾患」の論文が「本は電子書籍の夢を見るか」や「オンデマンド出版論」に混じってくる。もちろん、私がこの手の論文を書くわけがないわけで、同姓同名の小児科のお医者さんがいるからだ。
こうした同姓同名問題は検索エンジンの最大欠点とも言われてきた。中西秀彦はそんなに多いとは思えない名だし、私のような出版論と医学分野では混同する人も要るとは思えないが、似た領域、よくある名前だと混同は大問題となる。ノーベル賞受賞者に田中耕一という人がいる。この名で検索するとおそらく、ご本人と思われる化学関係の著作ばかりでなく医学、社会学などの著作があがってくる。よくある名前だから、これは同姓同名の別人の著作だろう。これはノーベル賞受賞者ご本人より同名の研究者の方が迷惑だろう。自分が有名研究者に紛れてしまう。
この同姓同名混同問題は中国や韓国ではさらに深刻だ。王さんや金さんばかりだからだ。しかも、世界の趨勢は英語化である。最先端の研究は英語でださないと国際的には評価されにくい。そしてまたこの評価の名前が問題になる。今や研究論文の評価はどれだけ引用されたか言及されたかが勝負だからだ。同姓同名、しかも英語だと中西も仲西も同じになってしまう。この中での引用評価となってしまうとなると、これはもう評価自体の信頼性に関わる。
前置きが長くなった。ORCIDはこの問題に終止符を打った。研究者に一律に番号をふったからだ。これがあればもう同姓同名の混同問題はないしコンピュータでの検索やリンクもすさまじく早い。むろん、登録は任意である。嫌ならしなくてもよい。
私も韓国の雑誌に投稿したときに書くように言われて取得したがそれまでその重要性はわからなかった。さすが韓国ではこのORCIDの記載義務づけも早いようだ。例の金とさん問題があるからだろう。
ここからだ。ORCIDのすさまじさを実感したのは、先日ORCIDのサイトでなにげなく自分に関する記載を調べていた時だ。驚いたことに30年以上前に書いた私の本来の選考である心理学の論文が記載されていたのである。ORCIDで同定されて自動的に記載されたものらしい。これはORCIDの仕組みが公開されていて、どんどんORCIDのもとにその人に関する情報が集まる仕組みになっているからだ。たとえば出版社が加盟すると、その出版社の雑誌に掲載されるとその記事の著者のORCIDに自動的につながっていく。
この仕組みは著作だけでなく所属情報などでもいえる。研究者は勤め先が頻繁に変わるが、勤め先の大学などが、ORCIDに加盟していれば、その所属情報も自動的に変わっていく。すると、その人が入会している学会や協会の所属情報も自動的に変わることになる。
これは大変な仕組みである。ORCIDに登録すると、すべての自分に関する情報が識別され、集まってくる。ORCIDはすごい勢いで普及しているといわれるがさもあらん。これとAIが組み合わさったり一般人にまで拡大すると個人情報と個人評価はまったく新しい段階に突入する。社会へのインパクトは予想すらできない。
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