人がいない
みなさん。最近求人しても応募がないと思いませんか。ニュースで見ても、宅配業者が人手不足で悲鳴をあげているとか、ファミリーレストランが24時間営業を人件費高騰でできなくなったとか。統計を見ると、どうもこの人出不足はあのバブル期より深刻なようなのだ。
バブル時代より求人が深刻と聞いて、「なぜだ」といぶかる人は印刷業界に限らず多いのではないか。バブルの頃は印刷業界は本当に忙しかった。私はバブル最末期に営業の一線としてすごしたからわかるが、とにかく注文が降るように来たのだ。これをこなしさえすれば儲かると、印刷もプリプレスもどの職種も採用しまくっていた。今は印刷業界だけかもしれないが、そんなに景気がよいという実感はない。なのに人が足りない。
どうもおかしい。去年あたりは、これからコンピュータやロボットの発達で労働力としての人はどんどん要らなくなるとすら言われてきたのに。IT奮闘記としてはこの謎に迫らねばなるまい。
ひとつの鍵は、宅配業界の人出不足の原因を探ると見えてくる。在宅率の低下による再配達とかも原因の一つと言われるが、どうやら最大の原因はネット通販である。確かにネット通販は社会を変えた。今にして再認識するがすさまじいまでの技術革新だった。在庫と流通をコンピュータで管理し、どんな小さな注文でもまとめメーカーへの巨大な発注とすることでコストを下げ、消費者には販売履歴を元にしたリコメンドサービスで購買意欲を刺激し続ける。
我々はネット通販画面を見ながら欲しい商品をポチっとクリックするだけで、お金は銀行から引き落とされ、どんな商品でも宅配業者が届けてくれる。←ここだ。
この最後の宅配業者が届けるところに、トラックが動き人が動いている。どんなに注文過程、流通過程を合理化したとしても、商品に形があり、重さがある限り、ここは合理化できない。
ドローンで運ぶとか無人配送トラックで配達するというようなアイデアも考えられているらしいが、まだ実現にはしばらく時間がかかるだろう。
そしてもうひとつ、宅配トラックの運転手は単なるドライバーではない。営業マンでもある。愛想良く荷物をひきとり、留守のときは再配達の予定を聞く。人としてのコミュニケーション能力がいる。淡々と運転できるだけの人ではできない。
印刷業界も、コンピュータ化でずいぶん省力化された。その分、価格が下がっただけなのは苦しいところだが、一昔前に比べると、画期的に少ない人数で工場がまわるようになった。部数と規格が決まっていて、インターネットできたPDFを流すだけというような仕事なら、それこそWeb to Print のソフトとデジタル印刷機を使えば人など全く必要ないだろう。
しかし、今、なぜか人がいる。それもコミュニケーション能力に長けた人がいる。私がこの業界にはいったころには、文撰とかワープロというような原稿の文字を入力するだけの仕事というのがあった。今はそういう職種はあまりみない。そのかわりに、原稿すら書けない人の自費出版を手助けするというような仕事を出来る人が要るようになった。お客様に丁寧に接して、原稿の作成から手助けすることのできる営業マン。あるいは、広告対象の目的を聞いて、ネットか印刷かまたはその組み合わせかを適切に判断し、デザインまでてがけ、あるときにはプログラムのコードまで書いてしまえるような人材。
コンピュータで合理化すればするほど、人間が必要な場面が増えてくるということだ。それもコミュニケーション能力に長けた人材が必要となる。このことはある意味、求人難はバブル期以上に深刻であることを意味する。今は優れたコミュニケーション能力のある人材がいるからだ。人材、来てくれ。