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2015年12月に作成された記事

紙型を知っていますか

 紙型をご存じだろうか。活版を保存する際、活字そのものを保存したのでは非常にかさばるので、凸活字を厚紙に押しつけ写し取って保存するという技法である。再版の際には、この紙型に鉛を流し込んで鉛版を作る。輪転機など丸い版を必要とする場合はそもそも活版では使えないので、紙版を作り、そこから湾曲した鉛版を作る。昔はどこの出版社にも印刷会社にもあったらしい。 出版社OBの人たちと話をする機会があって、紙型の話になった。活字組は印刷会社の仕事で、出版社はほぼその現場を知らず関心もないが、紙型は出版社にとって身近にあったもののようで、紙型をめぐって話がはずんだ。出版物は初版から儲かることはまずなく、再版以後が勝負だったから、紙型が利益を生む財産だった。そのため紙型は印刷会社ではなく出版社で保存することもあったらしい。紙型には再版の履歴とか、活字ではなく紙型の上での訂正とか、再版以後の印刷の営みが刻みこまれている。古い出版人は思い入れが強いようだった。出版史の研究者にとっても活字組版の研究が一巡した今、紙型には大いに興味をかきたてられるものらしい。

 だが、紙型は一時的な活版の代替物という認識だったせいか、また紙という経年劣化の激しい材質を使っていたせいか現存をあまり効かない。当社にも20年ほど前活版を廃止するときに記念にと残したものが数枚残存しているだけである。これはそろそろ系統的に保存しておかねば歴史の中に埋もれてしまいかねない。まだまだ探せば捨てられ損なった紙型が出版社の倉庫から見つかるのではないか。未来のためにぜひ保存しておきたいところだ。

 20年ほど前に産業としては終わった活版設備そのものは、結構遺産は残されていて、各地の博物館などに収蔵されている。特に活字はもともと量が多いこともあって、今でも目にする機会は多い。なにかのイベントの折には活字が景品として配られたり、活字を組む催し、果てはわざわざ美術品として活版で活字を作る試みも行われていたりする。

 しかし、ここでも実際の出版印刷物、それもページ全体の活字組がそのままの状態で残っているものはあまりない。当社でも活版を廃止するその日まで、ページを組んだ状態の活版が山ほどあったはずだが、活版廃止当日のうちにみんな崩してしまった。活字組は印刷が終われば紙型を取って崩すものだったからだ。組まれた状態のものを残しておかねばと思ったときにはもう遅かった。芸術としかいいようのない、数式組の組版も今やまったくない。本としては残っているが、それがどのように組まれ、積分記号や分数はどうやって表現されていたかという活版面の写真すら残っていない。

 終わったものは要らないもの。それは当然だが、現在に生きる者は未来に対して自分たちの生きた航跡を残す義務もある。歴史から学べることは多い。だから、残すべきものはしかるべき方法で残すべきだ。組まれた活字はもう遅いかもしれないが、あれば、是非プラスチックの容器にいれてでも保管していただきたい。活版は糸でとめられているだけだから糸が劣化するとあっというまに崩れる。たぶんあるとしても、すでに糸の経年劣化が限界に来ているはずだ。紙型はなおさらだ。是非残していただきたいし、将来、それが単なる厚紙の束でないことをしめす解説のひとつも書いて残していただきたい。博物館で収蔵できればなおいい。

 そして、次にモノタイプの紙テープ。電算写植のフロッピーなども保存の対象になってくるだろう。フロッピーなどはその読み取り装置と動かすOSも含めて保存しないとなんの意味もない。ある意味、これは活版や紙型以上の難物かもしれない。しかし今それをやっておかないとたぶん、20年後、50年後後悔することになるだろう。

 紙型を通じて、過去に思いをはせたところで、来年もよろしく。

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