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2014年8月に作成された記事

「紙の」校正

 新しい単行本を印刷学会出版部から出します。現在、校正中なのだが、さて、今回はその校正の話である。

 印刷学会出版部の中村さんから「『紙の』校正はいりますか」というメールが来た。つまり校正は紙を送らず、PDFによる電子校正だけでいいかという質問なのだ。少し前までは、校正というと紙で行うことが当たり前だった。校正刷りはゲラ刷りとも言う。「ゲラ」は活版用語でもあり、あまり最近では聞かなくなったが、わら半紙をコヨリで綴じたゲラ刷りを出版社や著者に届けるのが印刷会社営業の最大の仕事だった。ゲラをなくしたとか、初校と再校が入れ違ったというような校正にまつわる悲喜劇が印刷会社では日常茶飯に起こっていた。

 これが急速に電子校正、特にPDFでの校正に変わって来ている。

 PDFによる電子校正は便利である。まず第一、紙という物理媒体のやりとりがないから、郵送の必要も、営業の配達の要もない。印刷所で校正ができれば、すぐにメール添付などで著者のもとに届く。少し以前は、PDFで届けても赤入れするには、一度著者のところでPDFをプリントアウトしてもらわねばならず、嫌う著者もいたが、最近のバージョンのPDFだったら、データの中に直接訂正を書き込むことも可能だ。文言の挿入などは、PDFに挿入された文言がそのまま訂正データにもなる。そして著者校ができあがったら、出版社の編集部と印刷所に添付ファイルやファイル転送で同時に送られてくる。

 それでも、著者が多数に渡る雑誌などは、ひとつのゲラを巡ってそれぞれの著者や編集部が別々に赤字を入れたりして収拾がつかなくなることがある。こういう時はPDFでは管理しにくいが、現在では校正専用のネットワークシステムで、そうした複雑な校正でも、誰が入れた訂正かを同定できたり、権限を与えて最終責任を明確にする専用システムもできている。こうなると著者・編集部・印刷所も含めた総合電子編集システムということになる。

 最近では、著者の側でも電子での校正に慣れ、紙の校正を送ろうものなら「今どき、紙で校正を送ってくるな」と怒られることさえある。この例でわかる通り、最近の校正のデフォルトは電子である。だからこそ冒頭中村さんの「紙の」というおことわりが必要になってくるわけだ。単に校正というとき、それは電子校正である。

 そういえば出版現場から「紙の」という注釈をつけなければ意味が通らないものが増えた。たとえば原稿。著作はワープロやパソコンで書かれ、紙の原稿はよほど特殊なものか、年配者からのものしかない。もちろん、紙の原稿は「紙の」原稿と断りがないと印刷現場が混乱する。プリントアウトはあるが、これは「紙」原稿とは言わない。プリントアウトはかならずもとになったデータがあるから原稿としてはそちらを使うからだ。

 原稿から「紙」が消え、今校正からも「紙」が消えつつある。メールも冒頭にあるように「電子」メールとも言わなくなった。メールと言えば、電子メールのことで、紙の手紙を送るときは「紙の」とか「郵政省の」とかつけなければ通じなくなってきた。出版の現場で進みつつある校正の電子化も、すでに「電子校正」などというような妙な言い方はしない。単なる「校正」である。

 そして、いまのところ、書籍といえば紙の書籍のことだし、電子書籍はわざわざ「電子」書籍と言っている。が、これも書籍のデフォルトが「電子」書籍となり、「紙の」書籍には「紙の」をつけねばならないときは近いのかもしれない。

 ところで、校正中の本だが、「印刷会社とデジタル印刷」という題名で、デジタル印刷という領域であるにせよ「紙の」印刷の復権をうたったものである。ただ、残念ながら書籍印刷の復権の話ではない。デジタルで復権するのはパッケージや商業印刷である。そこは私でも首尾一貫しているのだ。

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