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2013年12月に作成された記事

オフセットの搬出

 菊半裁判のオフセット二色印刷機が一台、工場から搬出された。中古として買い取るという業者はもうあらわれなかった。無理もない。30年近く前の機械で、水棒はモルトンだし、インクの調節はねじでまわすタイプだ。その上、この機械を作っていたメーカーはとうに印刷機事業から撤退してしまっている。

 実際、もう半年動いていなかった。二色機なので表紙を刷ったりするのに便利だということで、しばらく残してあったのだが、工場スペースの有効利用のため廃棄を決めた。

 私はこの機械には愛着があった。私が入社して初めて導入した機械なのだ。当時は活版印刷機と入れ替わるように平版印刷機を導入していた時期にあたる。私自身も亡き父に命じられて、平版機械を使えるようになるため、メーカーの工場まで研修に行ったりもした。その後は営業に出るようなったので、実際に仕事で動かすことはなかったが、忙しい時期にはモルトン洗いを手伝ったりしていた。

 その後、私が電算写植やDTPの導入、オンラインジャーナルのたちあげなどどちらかといえば、プリプレスの領域で忙しく立ち働いているあいだも、あとからはいった菊全機が入れ替えられていったあとも、工場のかたすみで律儀に動き続けていた。最初は新入社員の入門機だったが、いつのまにか、ベテランが退職間際に使う機械になっていた。モルトンの取り扱いやねじ式のインキ調整などもう新入社員が習うこともなくなっていたからだ。それだけ陳腐化もしなかったのだ。ある意味、自動機でないからこそ長く使えたのかもしれない。

 しかし、もういよいよ使える人が一人もいなくなった。新人にこの機械の使い方を新たに覚えてもらっても、その技量が次の機械に活かせる事もない。それに、もはや半裁判ではオフセットである必然性がない。部数が多ければ菊全判で二丁付けすればいいことだし、部数の少ないものはオンデマンド機である程度カバーできる。どちらも無理なら協力会社に頼むだけのことだ。

 したがって、代替機もない。この菊半機が搬出されたあとはぽっかり空間があいた。工場長に聞くと、紙置き場をここに移転するという。倉庫はいくらあってもたりないからだ。結局、オフセット機が1台減った。 

 強いて代替と言えば、同じ週、事務所に大きなコピープリンタ複合機がはいった。いわゆるオンデマンド印刷機という領分の機械ではなくコピー機だ。販社も印刷機メーカーやオンデマンド機メーカーではなく、事務機器商社だ。古い事務用コピー機がリースアップしたから代替機がはいっただけのことだ。

 もっともこの機械、印刷機ではなく事務機といい切れるかというとそんなことはない。オンデマンド機とコピー機に機構的な差はない。無版印刷機のうちすこし多めの部数を刷る機械をオンデマンド印刷機、それ以外をプリンタやコピー複合機と言っているだけの話だ。一昔前、印刷会社の基本と言われた伝票やはがきといった軽印刷の分野はオンデマンド機すら使わなくなっている。こうしたコピー複合機で充分役にたってしまう。そもそもクライアントから、軽印刷分野の注文もほとんどなくなった。自分の家や会社でプリントして済ませてしまうわれるのだろう。

 この30年間、印刷業界は劇的にかわった。それなりの価格と、それなりの技術が必要だったオフセット印刷も、もうプリンタで代替できるところまで来てしまった。あるいは、印刷すら要らないというところまできてしまった。わたし自身、このコラムを読まれた方ならご存じの通り、デジタル化の先頭にたって会社でも業界でも旗を振り続けてきた。でも、コンピュータどころか自動化のかけらもない小さなオフセット印刷機を見送るとき、ふとさみしさを感じたのはなぜだろう。

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