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2013年8月に作成された記事

業態変革という名の空中戦

アベノミクスとやらで景気は上向き(2013年8月現在、この先どうなるかはもう誰にもわからない)というが、残念ながら印刷の需要はなかなか回復しない。特に出版印刷、商業印刷というあたりは先行きが暗い。その原因は電車に乗ってみればわかる。社内での暇つぶしに紙の本や雑誌を見ている人などほとんどいない。たいていスマホか携帯ゲーム機から目を離さない。そしてちいさな画面に熱心に何かを打ち込んでいる。

 この状況下、業界団体で唱えられているのが「業態変革」だ。印刷そのもので儲からないなら、他の商売をしましょうと印刷工業組合自体が旗を振っているわけだ。私も本誌5月号で「卵の殻」を破って、新しい商売に乗りだそうとさかんに煽ったりもしている。現に当社では、オンラインジャーナルやXML、それに総合事務サービスなどの新規事業をはじめている。これはもう変えるつもりはなく、とことんつきつめていきたいと思っている。

 だが、業界団体の会合にいくと、「業態変革」路線は評判が悪い。紙への印刷というのは印刷会社の根幹であって、印刷会社では人も機械も印刷事業のために存在しているといっても過言ではない。だからこその印刷会社なのだ。それを捨てて別のことをやれというのはあまりに現実を無視しているというわけだ。

 「業態変革」はたとえれば戦車隊に空中戦を呼びかけているものなのかもしれない。もはやビジネスの中心が空中戦(業態変革後の例としてよく例にあげられるような電子ビジネスやマーケティング戦略)に移行しているとしても、戦車は飛びあがれない。

 「業態変革」と呼びかけたとしても、大多数の印刷会社は印刷以外に生きる道を持たない。なにか新しい商売をさがせと言われても、できる会社の方が少ない。だいたい印刷工業組合は「印刷」の工業組合であって、「印刷」以外を探せというなら、その後どこへ向かうのかを指し示すべきだろう。歴史をひもとくと1970年代には「活字よ、さようなら、コールドタイプよ、こんにちは」といったわかりやすいコンセプトがうちだされていた。はっきり活版の次には写植が来る。凸版印刷の次にはオフセット印刷が来る。そのように昔の工業組合は明確に指導していた。今はこれがない。業態変革の向こうは自己責任なのだ。

 これでは、印刷工業組合の会員社は減るはずだ。業態変革に成功できる会社は元々「印刷」工業組合にいる必然性がないし、「印刷」に活路を見いだそうとする会社には何も方向性を提示しない組合ではメリットがない。

 地道な印刷による地上戦に意味がないのか。

 確かに戦いの帰趨を決するのは、最新鋭のジェット機による派手な空中戦かもしれない。しかし、最終的にその地を制圧するのは戦車隊を中心にした地上兵力ではないのか。つまり、「業態変革」ではなくて紙の印刷という業態の延長上に、まだまだ時代に密着して生きる方策がたぶんある。本や雑誌、広告だけが印刷ではない。

 ひとつは印刷領域の拡大。包装材やパッケージ。これはプラスチック容器が環境意識の高まりから使えなくなり、紙が見直されている領域だ。

 もうひとつは印刷方法の変更。オフセットからトナー方式やインクジェットのオンデマンド印刷へ。適用部数が少ないかもしれないが、ワンツーワンのような新たな付加価値を見いだしつつある。

 これらを自信をもって推奨すればいい。未来はいつも技術革新とともにある。業態変革できる会社は業態変革を勝手に進めたらいい。でも地上にもまだまだやれることがあるのなら業界団体はその方向に向けて、業界を束ねていくべきだ。もちろん、地上戦は血みどろの戦い。損耗率も高い。最後まで生き残るのは難しいかもしれない。しかし戦車は飛べない。この事実は動かせないのだ。

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