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2013年6月に作成された記事

日曜研究者はネットで

突然ですが、私、博士号を取得し、博士(創造都市)となりました。

 対象となった論文は「学術出版の技術変遷論考-活版からDTPまで-」です。印刷学会出版部から同名の書籍として出版されておりますので、是非お買いあげください。と、まずは宣伝からはじまり申し訳ない。

「仕事をしながらの論文執筆は大変だったでしょう」とみなさんに感心していただくのだが、私はこのコラムを書いているぐらいで文章を書くのは苦にならないし、論文の素材については、自社の記録を元にしているので、それほど大変だったという感じはない。むしろ、父の時代の古い見積書を探し出したり、退職者にインタビューしたりと割と執筆過程そのものを楽しませていただいた。

 大変だったのは文献による記述の裏付けだった。博士論文は論文なので、このコラムのように憶測とか、曖昧な記憶だけで書くわけにはいかない(失礼!)。たとえば「DTP以前にレイアウトが可能なパソコンソフトがあった」という記述をするとしても、なんとなくそのような記憶があると言うだけでは論文にはならない。あったという証拠の文献や証言がなくてはならない。

 昔の記憶で「あった」と書いてもそれを証拠づける文献が見つからず、泣く泣く消去した箇所も少なくない。論拠を固めるためには、とにかく関連文献の山と格闘するしかない。大学だと専門の文献を備えた図書館があり、そこから探し出すことが可能だ。しかし、大学に所属していない私は大学図書館を自由に使うことは難しい。もちろん、使える場合は使ったし、大学でなくても公共図書館や新富町の印刷図書館にもずいぶんお世話になった。

 でも、正直言って、日曜研究者の私には図書館の利用は正直難しかった。印刷図書館も平日しか空いていないし、平日でも昼休みには閉じてしまう。

 文献調査に一番利用したのは実はインターネットである。何か確かめたいことがあると、とにかく、YahooかGoogleでキーワードをたたいてみる。もちろん現在の玉石混交のインターネットでは、検索してもたいていは使い物にならない情報ばかりがでてくる。それでも元写研の技術部長だった小野澤賢三氏の「電算写植システムの開発」のようなすばらしい文献がネットにあがっていたりする。インターネット上の断片的な情報から、それらしい文献を探し当てたこともある。残念ながらインターネットでは全文はまず提供されていないから、そうした文献はとにかく紙版で手にいれなければならない。こういうときはAmazonが役に立つ、それらしい文献があればとにかくクリックして買う。中には絶版になっているものもあるが、Amazonから古本が入手できるのは助かった。こうして古本で入手した本の中には凸版印刷発行の『印刷博物誌』のような大ヒットもある。これは実に有益だった。

 こうして検索にYahooやGoogle、入手にAmazonという技法で文献をそろえた。もちろん、買ってみたら、まったく違う領域の本だったり、すでに入手していた情報でしかなかったこともある。でもいまのところ、私のような日曜研究者が一定の時間内に論文を書くとしたらこの方法しかない。逆に言えば、インターネットがあるからこそ、日曜研究者でも博士号が取得できたということかもしれない。

 この経験をしてみると、すべての文献がインターネットで全文自由に読めるようになっていればどれほど素晴らしいかということは切実に思う。すべての文献が電子で読め、検索エンジンで縦横な検索ができれば、人間の知の世界はもっと拡大するに違いない。

 インターネットの可能性と便利さを目の当たりにすると、印刷会社が電子時代にどう生き残るかというのは、些細な話にも思える。むしろ電子の時代に我々は何を求められているのかを問うべきだ。

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