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2013年4月に作成された記事

かみたのみの終焉

今年、関西のある大学がユニークな受験生募集広告を行った。「近畿大へは願書請求しないでください」という新聞広告に関西だけかもしれないが、驚いた人も多いはずだ。これは、インターネット出願であれば受験料を大幅に割り引くという試みをわかりやすく訴えたものだった。「かみたのみの受験は、もうやめだ」というキャッチフレーズも目を引いた。インターネットでの出願を実施している大学は少なくないが、ここまで思い切ったキャンペーンも珍しい。

 なぜ、そうまでして、紙を減らしたいのだろうか。この大学のプレスリリースを見ると、今までもインターネット出願を行っていたが、出願率は5%にも満たなかったらしい。これを大胆に変えたいという。結果次第では来年度以後、紙での願書受付はとりやめるとまで書いてある。

 表向きの理由はエコである。「節約できる紙、なんと東京スカイツリー3本分」という広告も展開されていた。紙の印刷物が環境に悪いというのは使い古されたキャンペーンである。これは印刷業界から何度も反論しているように、環境負荷の定義の問題であって、かならずしも真実とは言えない。それでも現在社会の暗黙の了解となっているようで、表だって「紙の削減によるエコ」と言われると反論しづらい。

 実際のところは、紙の願書廃止による事務手間の削減が目的ではないかと推測する。まさに「東京スカイツリー3本分」の願書が事務局に舞い込んだら、その処理は大変だ。そして、その紙の願書も紙のまま処理されることはなく、願書は手でコンピュータに入力されるはずだ。なにせ入学願書のこと入力間違いなど絶対に許されず、二重三重のチェックなど相当な手間がかかるものと思われる。またその入力作業は一時期に集中するわけだから、臨時雇用か、外注で対応せざるをえないだろう。

 これがインターネットによる出願となれば、受験生が直接コンピュータに入力してもらえるわけで、入力ミスはあくまで自己責任ということになる。そして膨大な紙の書類も事務局に届かない。コンピュータさえしっかり動いてくれれば、臨時雇用も外注もいらない。プログラム開発そのものは大変な手間がもしれないが、それ自身は大学事務の閑散期に作ってしまえる。受験生にとっても、紙への記入や郵送手間から解放されるわけで、受験直前、すこしでも勉強時間を確保したいときにメリットはあると思う。

 ただ、印刷会社にとってはインターネット出願の完全実施は膨大な数の願書や入試要項の印刷需要が失われることを意味する。これは中小印刷会社にとっては大打撃だろう。こうした印刷の元請けは大手かもしれないが、実際に細かい印刷を行ったり、願書や説明書などをセッティングして封筒に詰めたりするのは中小の会社がおこなっていたはずだからだ。おそらくこのままインターネット出願が義務化されれば大変な額の需要が失われることになる。もちろんそんなことは何年も前から折り込みずみだろうし、今の印刷会社なら社会のニーズにあわせて事業再構築を考えていることとは思うが、実際の作業をおこなっているような会社の再構築は難しいだろう。

 しかしこの件でおもしろいのは、ここまでのキャンペーンをしなければ紙の出願が減らなかったということである。昨年までのインターネットと紙の出願率の比較が出ていたが、インターネット出願最初の年こそ、物珍しさからか6%ほどのインターネット出願があるが、それ以後は3%程度に低迷しているらしいことだ。おそらくこの結果は大学にとっては予想外のことで、それが今回の受験料割引きにまでいたったものと思われる。

 受験生の心理は読み切れないが、まだまだ、紙への安心感と信頼感は若い世代といえども根強いのだろうか。あるいは「かみ」たのみというような験担ぎがあったのかもしれない。

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