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2011年9月に作成された記事

活字が消えた日 -コンピュータと印刷- 復刊

私の唯一のベストセラー「活字が消えた日」がソフトカバーで10年ぶりに復活!

よみがえる感動!電子の時代に若旦那は果敢に活版工場の電子化に挑戦した。古参社員との軋轢、父との確執、若い社員の協力。やがて活版職人はUNIXをあやつるようになる!!

Katsuji_cover

「松香堂」発行 ISBN978-4-87974-652-8   本体1800円+税 


復刊の辞

 本書は一九九四年に晶文社から刊行された同名本を軽装版として復刊したものである。

 晶文社から発行された本書「活字が消えた日」は著者自らが言うのもなんだが、書評などで好評もって迎えられ、売れ行きもよく版を重ねた。最終版は七版で一九九七年である。その後、私はさらに晶文社から「印刷はどこへ行くのか」を上梓し、また他社からも今までに五冊の著書を刊行した。しかし残念なことに、販売部数にしても書評などでの評判に関しても処女作である「活字が消えた日」を上回る物はない。

 本書は最後の増刷から一〇年以上が経過し、市場に出回ることもなくなっていた。ただ、私の講演会などでは人気が高く、根強く売れ続けていた。昨年(二〇一〇)電子書籍がブームになり、私も「我電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す」という本を出したが、これは私の本としては久々にヒットとなった。これに関連してか、印刷電子化の原点である「活版から電子組版」へのいきさつを記した本書への関心が高まり、プログなどでの言及が増えていた。晶文社に増刷予定を問い合わせたが、晶文社の方針変更もあってか増刷はしないとのこと。そこで晶文社とも相談の上、軽装版として松香堂から復刊することとした。内容については当時のままとしたが、表紙をハードカバーからソフトカバーにあらため、ジャケット類は時代にあわせて新に作り直すこととした。

 初版発行から十七年。三〇代だった私も、もう五〇代も半ばにさしかかっている。このあいだに、印刷業界にもDTP革命やCTPの普及などいろいろなことがあったが、出版市場、印刷市場は縮小し続けている。かわって伸びているのはネットなど紙のない情報流通だ。この勢いは本書で予想したよりも遙かに速い。

 活版から電算組版そしてDTPへの変化のただ中にいた時、グーテンベルグ以来のこんな変革は五百年に一度あるかないかだろうし、人間の短い一生には一度しか体験しないぐらいの大変革だと思っていたが、なんのことはない。現在では、電子書籍が印刷業界の話題の中心となる時代だ。電子書籍は活版が電子化したときよりもはるかに大きな変化を本をはじめとした情報流通の世界におこすいきおいである。

 ある意味、活字が消えたとき、実は、本も終わっていたのかもしれない。

電子出版EXPOに見る印刷屋の未来

 夏の楽しみ、電子出版EXPOに今年も行ってきた。電子出版に関する展示会は、印刷関係の展示会が寂れる一方なのとは対照的に、年々隆盛になっている。今年は節電のお達しのためか、空調もあまり効かず、動く歩道も動かないという状況下、平日というのに大変な人出だった。まさしく熱気渦巻くという奴だ。

 今年は去年あれほど目立っていた電子書籍専用端末の姿が目立たない。目立たないというより、もう電子書籍専用端末それ自身は電子出版の主要に関心事ではなくなっているということだ。特にiPadのようなタブレットタイプの電子書籍は、結局の所、キーボードを取り去ったノートパソコンにすぎないわけで、これはもう電子書籍展示会よりパソコン展示会でお披露目する性格の物になっている。そして電子ペーパーを使ったモノクロ電子書籍端末は進化がない。去年、初めて実物を見て進化に期待したカラー電子ペーパーも液晶画面のタブレットタイプ電子書籍に比べればどうにも見劣りがするレベルから進んでいない。いずれにしても、端末そのものは今年の電子出版EXPOの話題にはならない。

 元気なのは、とにかく電子書籍プラットホームと、電子書籍製作キットのブースだ。電子書籍の販売プラットホームというのはApp StoreやAmazonをひきあいにだすまでもなく、よほどおいしい商売に見えるのか、遅れをとってはならじといろんな会社がひしめいていて、印刷会社も大手から中小までいろいろな会社が参入を試みている。そして、電子書籍を製作するためのキット・ツール類はまさに百花繚乱。

 なんのことはない、電子出版EXPOといっても、電子書籍そのもので儲けようとしているのではなく、電子書籍で儲けようとしている会社相手に電子書籍のプラットホームや製作キットを売り込んで展示会なのだ。もっとも印刷の展示会だって、印刷を展示しているのではなく、印刷で儲けようとしてる会社や人のために印刷機という印刷ツールを売り込んでいるのだから同じ事なのかもしれないけれど。

 さてここから先、印刷会社が何がやるのかということを考える。やはり電子書籍を作ることしかないと思う。電子書籍のツールやプラットホームは、悔しいがわれわれにできる仕事とは思えない。もちろん、逆転の発想から印刷会社でプラットホームや製作ツールに革新をもたらすこともあるだろうし、現に大手では試みているところもある。しかし大多数のコツコツ製造を続けてきた印刷会社にとって、この領域は危険な賭だ。

 結局、各々ツールを使いながら、電子書籍端末に向かって地道に作業を繰り返していくことが印刷屋の仕事となるだろう。読みやすさや美しさを常に意識しながら読者の心に響く組版を続けていくということだ。考えてみたら、これは活版の時も、手動写植のときも、電算写植やDTPのときもかわりない。読者に美しい組版を届けることがまずは印刷屋のすべきことなのだ。

 だが、こんな美しいだけの話ではすまない。よくよく思い出したいのは、WEBページの時も同じようなことをいい、業界あげてWEBページに取り組んだのに、結局WEBページビジネスでは印刷会社が主役になれなかったことだ。原因はいろいろ考えられるが、WEBページを既存の印刷物デザインの延長と考えたからではないか。紙の上での読みやすさと、画面の上での読みやすさは違うし、画面ではブログラムも使ったインタラクティブなページを作れる。こうした進化に印刷業界はついていけなかった。電子書籍ではそうはさせてはならない。電子書籍というあらたなデバイスはいまのところは紙の本を画面上でシミュレートしているだけだが、これから絶対に電子書籍独自の進化をはじめる。その芽をいち早く感じ取って、今度こそ印刷業界を飛躍させねばならない。まだまだ電子書籍の動向から目を離せない。

(11/09/23 原文は7月に書いた物なので旬がすぎてますが)

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