« 2011年6月 | トップページ | 2011年9月 »

2011年7月に作成された記事

電子書籍で「我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す」を出す

 今日も今日とて、電子書籍への抵抗を説いてまわっておりますが、旗色は悪い。電子書籍端末は日に日に良くなる。薄くて軽くて綺麗になる。そして、さんざコンテンツの少なさを揶揄してきたが、ラインナップもどんどん充実している。青空文庫のような無料コンテンツを電子書籍で読む草の根の試みもはじまった。

 それでも、電子書籍への抵抗を続けなければ、印刷業界はメディアの大海の中で埋没してしまうと、抵抗運動を煽るのだが、笛吹けど踊らず、なかなか動いてはもらえない。むしろ、IT関連の会社から毎日のように送られてくる「電子書籍セミナー」のダイレクトメイルの数々に負けそうになる。曰く、「電子の時代は、早くから取組を始めて市場を制覇したもののみが勝つ、早い者勝ちの世界です。電子書籍にどこよりも早く取り組んで印刷業界での勝ち組になりましょう」。

ITの世界で勝ち残るのは一社というのは説得力がありすぎる。実例ばかりなのだ。あれほど多彩だったパソコンワープロの世界も、今やWORDの一人勝ちだし、DTPは関連ソフト一切合切含めてIndesignの寡占状態だ。かくて、電子書籍セミナーも勝ち組の一社になろうと大盛況とあいなるわけだ。ただ、電子書籍のフォーマットたとえばePubは勉強すればそれほど難しいものではない。むしろ共通規格であるだけに独自のレイアウトなどには凝りにくく他社との差が出しにくい。このまま行くと業界でePub受注で差別化できるのは、価格だけと言うことになりかねない。となると、これだけみんなが電子書籍セミナーにかけつけたあとは何がおこるかは明白だ。電子書籍制作サービスの過当競争である。そしてまたもや安売り合戦だ。

 嫌な想像をしなければならない。来年あたり、印刷通販サイトは、ePub通販サイトになりかわって、こぞって「激安ePub」「超特価ePub制作」の文字を並べるようになる。

 もともと、私は「電子書籍への抵抗勢力理論」で電子書籍による印刷業界への恩恵はないに等しく、印刷や製本の代金が減った分を電子書籍の制作ビジネスで設けるのは至難の技と言い続けてきた。ただでさえ、利幅の薄い電子書籍ビジネスで安値受注合戦が起こったら、おそらくもう何も残らない。利益も残らないし、売り上げも残らない。そもそも会社が残らない。

 しかし、だからといって旧来の印刷に展望が開けているわけでもない。印刷に展望が開けないから、成長産業であるように見える電子書籍ビジネスにとびつこうとするわけだ。なんか八方ふさがりだなと思っていたが、意外に若者の方がしたたかだった。

 会社の若い社員が、「電子書籍をやりたい」と言ってきた。ePub制作だけでなく、配布ビジネスもやりたいし、印刷とのコラボレーションもやりたい。電子書籍の可能性をとことんつきつめたいというのだ。彼らの言うには、今の書籍の延長線上に電子書籍を考えるから、悲観的にならざるをえないのであって、電子書籍をネットにつながった携帯端末ととらえれば無限の可能性があるという。どんな可能性かはわからないが、わかるためにはとにかく電子書籍を作ってみなければ話にならない。

 それで、彼らは実際に電子書籍を作って配布するというプロジェクトを始めたわけだが、そこで彼らが選んだのが私の著作である。つまり、例の書籍である。

「我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す」

 これが成功すれば、読者は電子書籍で電子書籍の抵抗への話を読むことになる。究極のアンビバレンツ。しかし、このアンビバレンツの中に、未来への展望がほの見えるような気がするのだ。電子書籍は500年続いたグーテンベルグ時代の完全な終わりを意味する。グーテンベルグの活版印刷術は本を大量に流布させることで歴史そのものを変革した。電子書籍とネット革命によって、これから何がおこるかは、老眼鏡ごしにはわからないかもしれない。

« 2011年6月 | トップページ | 2011年9月 »