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2011年4月に作成された記事

2年目の電子書籍抵抗勢力

 ちょうど1年前の本欄で「電子書籍への抵抗勢力たらん」と高らかに宣言した。この宣言はずいぶん反響があり、その後のブログなどでの発言も加えて、昨年「我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す」として印刷学会出版部から上梓させていただいた。なにせ、電子書籍バブルに湧いた去年のこと、抵抗勢力は色物扱いではあるにせよ、講演やシンポジウムなどあちこちでお座敷がかかった。

 言い続けてきことはただひとつ、印刷業界にとって、電子書籍普及はプラスになることはないということだ。もちろん、電子書籍のコンテンツ製作で儲けられるところも少数はあるだろう。しかし、大部分の印刷や製本を中心に行っている会社に電子書籍が恩恵になることはない。業界全体の損益を計算すれば絶対にマイナスだ。ならば、抵抗勢力となって電子書籍の普及を阻止するのがまずやるべきことだ。

 抵抗する具体的方法としては、その後いろいろ策を練ってきた。昨年の段階では版面権の主張をまずあげていた。版面権侵害の訴訟を連発し、電子書籍推進勢力に法律論議の手間をとらせて、意気をくじくというものだ。

 あとは政治利用である。日本の農業が農産物輸入自由化に抵抗して多くの譲歩を勝ち取ったように、電子書籍による印刷業界の被害を補填するように政治に働きかける。これには印刷業界・製紙業界あげての組織的な投票行動が必要だろう。最終的には印刷産業保護のための補助金や助成金を大量に獲得する。

 身近なところでは、電子書籍を推進するためにおこなわれている共通の交換フォーマット議論を分裂させる事が考えられる。これで交換フォーマットの制定が遅れれば現場はフォーマットの乱立で混乱し、それだけ印刷業界には有利である。

 しかし、1年抵抗勢力をやってみて、はっきりしてきたのは、こうした抵抗勢力理論が抵抗運動のパロディでしかないという現実だった。印刷業界に訴訟をおこす金もマンパワーもなく、業界団体は政治に対する圧力団体としてはあまりに非力だった

 だが、たとえ蟷螂の斧にすぎないとしても、当面は電子書籍への徹底抗戦をよびかけるべきではあると思う。いい古されたことではあるが、現在の書籍の印税システムをはじめ、知を巡るすべての活動は紙の本を前提としている。印刷業界も含め、多くの職業人が紙の本の生産にたずさわり、賃金を得てこそ、「本が読まれ、その本がうみたした知識からあらたな本が書かれる」という知の再生産が可能となっている。現在の書籍製作・流通におけるステークホルダーが電子書籍のシステムから廃除されたとき、はたして現在の知の再生産システムは今のまま維持できるのだろうか。

 まずは業界として電子書籍への態度を決め、腹をくくって、徹底的に業界利益のために行動する。こうした抵抗の中で本から電子書籍への移行が単なる情報伝達装置の変化にとどまるものではなく、根本的なメディアの変化であり、産業構造の転換であることをすべての人に認識させうる。抵抗運動で問題の本質を浮かび上がらせれば、かえって電子書籍時代の印刷会社の貢献を明確にでき、電子書籍そのものも、知の再生産の一翼として活動することの意味を自覚することになるだろう。

 逆に、自社だけが電子書籍で儲けられる少数になろうと印刷会社が安直に電子書籍の道にはいりこんでしまってはならない。それほど大きくはない電子書籍市場で値段の競い合いをすれば、DTP価格の下落の悲哀がEPUB作成価格の下落に置き換わるだけだ。そして印刷・製本という儲けのバッファがないだけによりさらに悲惨な体力勝負となる。

 電子書籍への抵抗が結局、電子書籍時代の印刷会社の体力を強化し、電子書籍を知の再生産の枠組みに招き入れることになると思うのだが、如何?

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